富山城址公園を通訳ガイドするとき訪日客に説明したい3つのポイント
通訳案内士として北陸地方を案内された経験のある方であれば、金沢城を案内することがとても多いのではないでしょうか。
しかし、中には日本の歴史やお城に興味があって、「富山城も見てみたい」と仰るお客様もいるかもしれませんね。
今回は「金沢だけじゃなく富山も見てみたい」というリクエスト(それほど多くはないと思いますが…)に応えるために必要な知識について書きました。
皆さんが訪日観光客の方をお連れする際に参考にしていただければ幸いです。
個人的には富山城址公園を案内する機会があるなら、ぜひ挑戦すべきだと思っています。
その理由は、富山城には江戸時代から現存している大変貴重な遺構が残っているし、富山藩の歴史や領域について正しく認識すれば北陸のガイディングに厚みが増すからです。
訪日客の皆様に説明しておきたいポイントは以下の3つです。
- 富山城が築かれた経緯
- 富山藩の領域
- 富山城址公園に現存する遺構(千歳御門、鏡石、搦手石垣)
富山城はいつから存在していた?
富山城の古い歴史については謎に包まれた部分が多く、はっきりとした変遷がわかるのは中世以降のことになります。
中世(戦国時代)の富山城
富山城は1543年(天文12年)神保長職(じんぼ ながもと)という戦国大名によって築かれました。ところが、現在の富山市周辺はかつて上杉謙信や織田信長、一向一揆勢など大きな勢力がひしめき合う争奪の場でした。つまり現在の富山市周辺は確固たる勢力の確定していない地域だったということですね。
この点において、中世に浄土真宗の一向一揆勢力の拠点だった尾山御坊(現在の金沢市)とは事情が大きく異なっていました。
近世(江戸時代)の富山城|前田利長公が整備
徳川家康が関ヶ原の合戦に勝利し、江戸幕府を設立しました。日本国内の争乱は平定され、平和な時代が訪れました。
そんな中、富山城を整備したのは加賀前田家の初代藩主 前田利長 です。ところが、利長がせっかく整備した富山城は大火事で焼失。1615年に江戸幕府が発布した一国一城令によって廃城になりました。
江戸時代の前田家加賀藩は徳川幕府に次いで2番目に大きな武家勢力でした。二代藩主 前田利常 は自分たちの血統を絶やさないよう、大乗寺藩(現在の加賀温泉駅あたり)、七日市藩(現在の群馬県富岡市)、そして富山藩という支藩を設けることにしました。
この時に富山城が再建され、前田利常 の次男 前田利次 が初代藩主として入城しました。富山藩は所領十万石の小さな藩領で、現在の富山城址公園にはかつて富山城の本丸が存在していました。
金沢城のある本家加賀藩(現在の石川県)はなんと百万石。富山藩とは明らかに規模が違いますね。
しかし、この小さな富山藩から富山の売薬産業が産声を上げたのです。
現在の富山城
現在のお城(天守閣)は、西暦1954年(昭和29年)に富山産業大博覧会という戦後復興の一大イベントに合わせて再建されたものです。日本で初めて再建された天守として話題になりました。大げさかもしれませんが、戦後日本復興のシンボルとも言えるのではないでしょうか。
富山藩の領域|富山藩=富山県ではない?
現在の県名は富山県。江戸時代の小藩であった富山藩と同じ名前がついているため、てっきり富山県全部が富山藩の支配下にあったのだろうと思いますよね。
そのような誤解はとても多いのではないでしょうか。
じつは富山藩に属していたのは以下の地域のみです。
- 富山町(富山まちなかエリア)
- 四方
- 西岩瀬
- 旧・八尾町
- 旧・大沢野町の一部
- 旧・細入村
ちなみに、観光地として知られている岩瀬エリアはかつて東岩瀬と呼ばれており、じつは加賀藩領です。なので、厳密に言うと、岩瀬の北前船文化というのは加賀藩が築いたものなのですね。
富山城址公園周辺を散策してみよう
現在の城址公園の広さは甲子園球場の2倍程度。公園内にはこじんまりとした天守閣と日本庭園があります。そんなに混みあうことはないと思うので、30分ほどかけてゆっくり散策してみましょう。
通訳案内士の方であれば、特に千歳御門、鏡石、搦手石垣などは江戸時代から現存している遺構なのでチェックしておきたいところです。
以下の記事で富山城址公園への行き方や見どころを解説しているのでご参考になれば幸いです。
まとめ
今回は富山城址公園を通訳ガイドする際に、訪日客の皆様にお伝えしたい3つのポイントについて解説しました。
北陸地方で通訳ガイドをするとなると金沢がメインになりますが、じつは北陸の歴史を語るうえで、富山にも興味深い観光スポットが存在します。
富山城址公園に佇む天守は戦後に再建されたものですが、千歳御門や鏡石など江戸時代当時の遺構も残っているので、日本の歴史に興味のあるお客様にはぜひお勧めしたい観光スポットです。
ぜひ通訳案内士の皆様には、機会があれば富山城址公園も旅程に含んでいただければと思います。
それでは、最後まで記事をご覧いただきありがとうございました!